お盆に入って 2日目

透き通るような 青空が広がっています

新盆をお迎えになる 御奥様のもとに

T様も 戻っていらっしゃることでしょう

 

 

T様との出会いは ある展覧会に出品していた 白磁のお皿がご縁でした

御奥様が気に入って購入していただき

「使いやすくて とてもきれいだから」と 

ご進物にしたいと 数多くのご注文を頂いたのです

 

ご注文から 納期までが 日数が少なく

頑張って制作していたものの 納期を少し過ぎていた時の事です

 

その朝 電話があり 受話器を取るなり

「おまえは 詐欺師か ペテン師か」

すごい剣幕に 思わず 受話器を落としそうになりました

 

納期に間に合わなかった こちらが悪いので 

ひたすら 謝ることしか出来ず

電話の前で 何度も 頭を下げていました

 

 

生前 父は 「商いは 信用が何より 大事だ」と 

口酸っぱく 私に言い聞かせていたものだけど

その信用を 私は 完全に 失墜していました

 

その夜 一睡もできませんでしたが

こっぴどく 叱られたというのに 

妙に 懐かしい 感じがしたのは 自分でも不思議でした

 

先ず 納期が遅くなっていることを丁寧に謝り

主人が一人で制作していること 手造りの工程 

窯までに どうしても 時間を要すること 

そして

「私は とても間違いは 多いのですが

人をだましたり ペテンにかけたりは 決してしません」

 

手紙にしたため なんとか 

納期に関しては

了解していただくことが出来ました

 

 

その後 出来上がった作品を気に入って頂き

お納めして ホッと ひと息つきましたが

私の 汚名は消えていません

誠意をもって 誤解を解く以外にありません

 

「今 どんなの作っているの?」と 度々聞かれるようになり

FAXが見えにくいと言われたので 

作品を撮った写真を紙に貼り付けてファイルをつくり

間違いがないように

作品や 納品書 送り状の写し など 何度も見返し 送りました

 

電話が来るたびに 緊張しましたが

T様と 私の汚名返上の 秘かな攻防戦でした

 

 

そんなある日の事 Tさまが 電話をかけてきて下って

「おれは あんたを信じるよ」と ひとこと 言ってくださいました

「やった~!!」私は 自分胸の前で 小さく ガッツポーズ

 

数年前

夫は 胆石の手術をして 数日 入院していた時の事です

 

T様が 「今 在庫どれくらいある?」と聞かれ

答えると たくさんのご注文をくださいました

 

ずっと あとで 「入院となると 大変だろうと思って 取ったよ」と

ぽつりと 言われました

 

 

昔 まだ 子供たちが幼少の頃

両親が 時どき 我が家に遊びに来てくれ

その帰り 父がそっと 私のお財布に お札を入れて帰っていました

 

あの叱り方 といい その あたたかな心遣いと言い

どこか 懐かしいと感じていた この感情は

父の面影と重なっていたのだと思いました

 

 

T様が逝かれて 1年以上過ぎているのですが

Tです」と あの懐かしい 明るい声の お電話がありそうな気がして

いまだ T様のお電話番号は 私の携帯に 

残されたままになっています

 

佳秀窯HP ↓

 https://www.nishiyama-tadashi.com