今日は 雨模様でしたが
立春がすぎて 少しだけ
暖かさを感じる一日になりました
先日 いつものことで 出掛けに 携帯を忘れてしまって
帰宅したら 友人のT子さんから いっぱい着信が入っていた
T子さんは まだ私が学生の頃に 近所のお兄ちゃんに嫁いできた
お嫁さんだ
家族同然の付き合いをしていたこともあって T子さんは 私のことを
妹のように 可愛がってくれます
すぐに掛け直すと
「特別 用事があったわけではないけど あなたの声が聞きたくて・・
ここのところ 体調がすぐれなくて お医者さまから 声を出して笑いなさいって
言われたのよ」
私は 特段 笑い上戸ではないのだけれど T子さんのまわりには
いつも笑いの種が転がっていて 面白いことが起きる
両親が亡くなってからは 中々里に帰る機会がなくて
そう言えば あの日以来 会っていなかった
思い出した・・可笑しさが こみ上げてくる
その日も 朝方電話が入って
「久しぶりに 会ってランチでもしない?」
うれしい誘いであった
T子さんの運転で K市へ
車中 さりげなく 「ちょっと 寄りたいところがあるんだけど
付き合ってくれる?」
美味しいものを食べに行くのだ 「イイヨ!ついて行く!」
二つ返事をしたのが 事の始まりだった
立ち寄ったのは K市の市民会館
入口には
「お宅に切れた金のネックレス 金杯 指輪 記念切手・・・
高く買い取らせて頂きます」の 広告がはられている
「エエエ~ッ!なんでッ!」
事は 随分前にさかのぼって・・・
数十年前に T子さんの義母さんが 桁を間違えて
買ってしまったという 「昭和天皇ご成婚記念硬貨」だった
なんでも二万二千円だと思って 予約しておいた金貨が
二十二万円の請求書と共に 届いたというエピソード付きの記念金貨だ
その頃で T子さんの月のお給料が 三万円弱だったというから
義母さんのショックは 大きかったという
近々義母さんと 十数年前に亡くなられたご主人との 供養が近づき
これを機会に 現金に換えたいということらしい
知らない世界に入る 心細さと 怖さが入り混じって 二人とも
ドキドキしていたが
そんな時 さすがは 3人のお子さんを立派に育て上げたT子さんは
肝が座っている
「ヨシ!行こう!」と 気合を入れて T子さんは入り 私も後に続いた
薄いカーテンで仕切られた殺風景な部屋で
ニコッと笑っているお兄さんが迎えてくれたが
坊主頭はグッとそり込み 眉は細く 腰パン姿
「T子さん 帰ろう 帰ろうよ」
私はT子さんの袖をひっぱて 帰りたくて仕方がないが
T子さんは 怯まずに
「査定して頂くだけでも よろしいですか?」と 続ける
ひっくり返したり 大きなルーペでのぞき込んだりして
十一万円位の値をつけられた
「帰って 主人と相談してみますが
もう少し何とかなりませんでしょうか」と T子さん
すでに亡くなっているお兄ちゃんのことを
引っ張り出して すましている
最初は ハラハラ ドキドキしていたのに
この頃になると 私も慣れてきて
T子さんと 若いお兄さんのやりとりを 楽しんでいた
それから 十三万八千円まで 上げてもらって
決着した
全てが終わって 二人で 無言で
階段を下りて行ったが
ホールの玄関を出た途端
安堵と 緊張がほどけて 笑いが噴き出て
ガハハハ・・・
二人で 大声で笑っていた
「お義母さんも 主人も よろこんでくれると思うよ
こんな機会しか ないから・・・
けど まったく あの二人は何をしているんだろうね~と
笑ってみているよね」と T子さん
小さいころ よく可愛がってくれた
二人の笑顔が 青空に浮かんだ雲間から
私たちを 微笑んで 見ているような気がしていた
「子供たち家族がみんな揃って
良い供養が出来たよ!」と
後日 たよりをもらったけど
あの日以来 会っていなかった
そろそろ T子さんのお庭の 大きな しだれ梅の蕾が
ふくらむ頃だろう
近々 会いに行ってみようと思っている
佳秀窯
http://www.nishiyama-tadashi.com/